羽生善治王座に中村太地六段が挑戦している第65期王座戦五番勝負。
第3局は134手で羽生王座の勝ちとなりました。
シリーズ成績を1勝2敗とし、ひとつカド番をしのぎました。
では、第3局を振り返りましょう。
第3局は中村六段の先手番です。
▲2六歩△8四歩に▲7六歩から角換わり模様を目指すのが中村六段得意の指し方です。
5手目に▲2五歩を決めたのは古い定跡。飛車先を伸ばさない方がその後の攻め幅が広がるので保留してきた歴史があります。中村六段の研究を感じますね。
羽生王座はオーソドックスな駒組みから、後手番ながら先攻する構えを見せました。
中村六段の▲7七桂~▲6七歩が珍しい対応です。
「△8六歩はひどかった」と感想戦でおっしゃる羽生王座。後手は飛車先を交換したため、6筋の駒交換から角成りで香車を取られ、飛車を詰まされてしまいました。ゆえに感想戦では飛車先交換に代えて△7七桂成が検討されています。
図の▲8六香で先手がうまくやったようですが、「香を打つ場所を間違えましたか」とおっしゃる中村六段。理由は8六に打つと△7六歩の時に▲8五香と飛車を取る一手となるためです。8七から打っておけば、本譜のタイミングで△7六歩と取り込まれた時に違う手が指せるので有力だったとのことです。
1マスの違いで形勢が分かれる将棋はつくづく難しいゲームだなと感じます。
局面は進み△4八角▲6八金に、取れる桂馬を取らずに3一の玉を△2二玉と入りました。
これは高等テクニックで、玉が3一のままだといつでも飛車で王手に打たれてしまいます。打ち場所は6・7・8筋など先手が選べ、どれも攻防手になります。
あらかじめ△2二玉と入っておけばそれらを選ばれることがない、という意味です。
ゆえに中村六段も飛車を打つのではなく、▲2四歩と玉頭から手をつけました。
2枚飛車で左右から挟み撃ちをかける中村六段。▲7五桂と側面から切り崩しにかかり、後手玉は風前の灯です。
羽生王座は△1三歩と受けて、ギリギリでしのぎます。
実は先手玉、銀が入るとかなり危なく、形によっては詰み筋が生じてしまいます。
△1三歩は受けただけではなく、攻めも見ている攻防手。羽生王座の視野の広さに脱帽です。
前図から数手進んだ局面。▲6二龍に対して羽生王座は手堅く持ち駒の桂馬を合駒に使いました。
桂馬を手持ちにしていれば先手玉は詰めろで、感想戦で羽生王座は「△4二銀で大丈夫ならわかりやすかった」と、コメントしています。
本譜も龍取りに当たっているので手番は握れており、詰めろ逃れの詰めろを繰り出す中村六段の攻めを見切って、羽生王座の勝ちとなりました。
羽生王座がカド番をひとつ凌ぎ、ホッとしている方も多いのではないでしょうか。
対する中村六段もタイトル奪取まであと2局チャンスがあるので、新王座誕生の望みも十分にあります。
次局も戦型は角換わりか雁木模様と予想します。
第65期王座戦五番勝負第4局
羽生善治(はぶ・よしはる)王座 対 中村太地(なかむら・たいち)六段
2017年10月11日(水)
<横浜ロイヤルパークホテル>神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1-3
立会:藤井猛(ふじい・たけし)九段
新聞解説:村山慈明(むらやま・やすあき)七段
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第65期王座戦 第4局 羽生善治王座 vs 中村太地六段 五番勝負
解説:永瀬拓矢(ながせ・たくや)六段
聞き手:貞升南(さだます・みなみ)女流初段