糸谷哲郎竜王に渡辺明棋王が挑戦していた第28期竜王戦七番勝負。
第5局は125手で渡辺棋王が勝ちました。
シリーズ成績を4勝1敗とし、渡辺棋王が竜王に復位しました。
では、第5局を振り返りましょう。
第5局は糸谷竜王の先手です。
横歩取り模様の出だしから、相掛かりになりました。
1筋の位が取れたので、▲3七桂から端を狙うのがこの場合の布陣です。
私が勉強した中原流相掛かりの本で見たことがあるなぁと思ったら、昭和63年の第43期名人戦第6局と同一局面でした。棋譜コメントでも飯塚七段がお話されていましたね。
実戦は△5四歩と前例から離れ、未知の将棋となりました。
第4局と同じように糸谷竜王は中飛車に振り、中央に模様を張りました。
1筋の位を緩手にしようという狙いです。
対する渡辺棋王はコンパクトに玉を囲い、▲5六歩から仕掛けていきました。
中飛車相手に5筋から開戦するのは、昔のタイトル戦で加藤一二三九段が指されていたような記憶がありますが、ちょっと記憶が定かではありません。
先手は角交換から▲1六角と居玉で離れ駒の多い後手陣を攻めました。
受けが難しいところですが、後手の糸谷竜王は△4一角と辛抱しました。
単純に▲1六角と△4一角では先手の方が働きが良く、この打ち合いは先手が得をしたとみて良いでしょう。
後手は歩得ではありますが、居玉なので、形勢はやや先手良しです。
銀を捨て、角も切って飛車を成り込んだ渡辺棋王。気の早いアマチュアなら、すでに勝った気分になるなるかもしれません。
冷静に見ると、先手の角損で、取り返せるのは8一辺りの桂香くらいです。
渡辺棋王もここでは「簡単ではない」という旨のコメントを残されています。
形勢としては、玉形と駒の働きを考えるとやや先手が良いですが、その差はわずかと言えそうです。
入玉模様で粘る後手に対して、上部に逃がさないように駒損を取り返して行った渡辺棋王。
先手が駒得になっており、入玉さえされなければはっきり良し、という形勢です。
図は壁銀を▲7七銀左と解消したところです。△9九銀が必至問題でよく出てくる挟撃の攻めですが、▲9七桂で寄りません。
当然とはいえ、この忙しい終盤で形よく自玉を安全にする指し方は見習う手と言えそうです。
この後、入玉模様に粘る糸谷玉を、寄せと点数勝負の二段構えで攻め立て、渡辺棋王が押し切りました。
渡辺棋王は3期振りの竜王となり、通算10期目の獲得は歴代1位の記録です。
復位前にも「渡辺竜王」と呼んでしまうファンも多く、「竜王 = 渡辺明」というイメージが強いですね。
ご本人のブログによると、色紙やサインを書いている中で実感が湧いてきたという旨のことを書かれていました。
渡辺棋王、竜王奪取おめでとうございます!