羽生善治王座に糸谷哲郎八段が挑戦していた第64期王座戦五番勝負。
第3局は131手で羽生王座の勝ちとなりました。
シリーズ成績を3連勝とし、王座防衛となりました。
では、第3局を振り返りましょう。
第3局は羽生王座の先手番です。
糸谷八段の2手目△8四歩に羽生王座は5手目▲7七銀から矢倉を目指しました。
がっぷり四つの矢倉をあまり指されない糸谷八段は急戦の構えです。
5手目が▲7七銀か▲6八銀によって作戦を変えるのがミソで、先手7七銀型には矢倉中飛車が良いとされています。
急戦矢倉の実戦例はずいぶんと昔に多く、この局面も26年前に2局ほど指されているそうです。
▲2二歩が手筋の一手で取らせることによってカベ金を強要しています。
「最後まで響いてしまいました」と、感想戦で糸谷八段がおっしゃっているように、終盤まで△2二金の形が影響してきます。
手筋は偉大ですね。
△2二金型は悪形ですが、それを逆手にとって△3二飛とは柔軟な発想でした。私の記憶が確かなら、山崎隆之八段も部分的に△2二金型で△3二飛としていました。糸谷八段は兄弟子である山崎八段を尊敬していると明言しており、きっとその将棋もご存知のことでしょう。確かに5筋はがっちり押さえられているので、弱いところに転戦するのは理にかなっています。
駒組みが進み、9筋から仕掛けた糸谷八段。対する羽生王座は▲4五歩と攻め合いを志向します。歩がぶつかったら取る手から考えたいところですが、「先手の言い分を通し過ぎてしまった感じですか(糸谷八段)」と、あまり良くなかったそうです。ここは我が道を行く△9五香のほうが有力だったそうで、「この変化はありますね(羽生王座)」とのことです。本譜は9六に垂らした歩を先手に良いタイミングで補充されてしまったのが痛かったです。
先手の方がやや指せる終盤戦。後手はやはり2二のカベ金がたたっています。とはいえ、先手も角が押さえられているので手段に困りそうですが、ここで▲7七桂が遊び駒の活用で気持ちの良い手でした。続いて▲6五桂と跳ね出し、あっという間に攻め駒に変身。この後、▲5三桂成と飛び込み、「天使の跳躍」を決めました。遊び駒は活用せよ、という言葉もあるそうですが、駒の働きは基本で大事なことと分かる駒運びでした。
3連勝で王座防衛を決めた羽生三冠。
この防衛で5期連続、通算24期目の王座獲得となりました。
また、タイトル通算獲得数を97期とし、100期を目前としています。
最近の防衛戦はフルセットが続いたので、ストレート決着をみると「いまだ羽生強し」という見方もできそうです。
羽生善治三冠、王座防衛おめでとうございます!