羽生善治王位に木村一基八段が挑戦していた第57期王位戦七番勝負。
第7局は93手で羽生王位の勝ちとなりました。
フルセットの末、羽生王位のタイトル防衛となりました。
では、第7局を振り返りましょう。
第7局は改めて振り駒が行われ、羽生王位の先手番となりました。
戦型は今シリーズ3度目の横歩取り。定跡最前線の戦いで、注目度は最高潮に達しています。図の▲8八銀は前例の少ない形ですが、部分的に▲7七角~▲8八銀の進行は横歩取りで時折見られる指し方で、「羽生の頭脳」にも似たような指し方が書かれています。この構想と後手の陣形の相性はいかに?
後手の木村八段は、右桂を活用し、7筋から戦いを起こしました。△8五飛は一世を風靡した中座飛車で見慣れた形ですが、それに加えて▲2五飛もセットになるとかなり珍しい形といえます。図は角頭に△7六歩とたたかれたところ。▲3三角成とすると△同桂が飛車にあたり、先手芳しくありません。ここは▲5五角と相手から角交換をしてもらうように指すのが手筋で、後手の左桂をさばかせない分、こちらの方が勝ります。
仕掛けた後手はどんどん行くしかありません。じっとしていると2五の桂が取られるので、木村八段は4五にいた先手の桂馬を飛車で取りました。続く△1九角成で、▲飛△桂香の2枚換えとなりました。後手は馬を作っているというプラスもあり、△4六桂の狙いもでき、このやり取りは損得が微妙です。感想戦では木村八段は「飛車を切るのではと思ったが仕方ない」とおっしゃっています。実戦はこの後、羽生王位も飛車を切って手番を重視したため、駒の損得は後手の香得となりました。
局面は後手が香得で馬を作っていますが、手番は先手なので、ここでうまい手があれば先手が良くなります。実はそのうまい手がここであり、▲2一飛と打てば良かったといいます。▲2一飛以下、△1三馬▲4一角△4二玉▲1四角成が厳しいためです。本譜は▲4四歩とたたいてから▲2一飛だったため、同じように進めると、▲4一角に△4三玉が生じています。うちのソフトによると、図で単に▲2一飛から▲1四角成と進めると+1000点で先手良し、▲4四歩とたたいてから▲1四角成まで進めると-400点で後手良しと出ました。たたきを入れるか入れないかだけで、約1400点も違うんですね。
前述のように▲4一角~▲1四角成まで行ってしまうと後手が良くなるため、羽生王位は▲5六桂と4四の金を攻めました。対する木村八段、△5五金と前に出ます。4四の地点がガラ空きで怖い受けです。すぐに見える▲4四歩は△3一香が木村八段用意の受けで、これは大変な勝負。ところが△5五金に▲4四桂という手段がありました。一見、中段玉になるので先手としても選びづらいかと思われましたが、以下の進行が示す通り、寄せになっています。
最後は4五まで逃げ出した後手玉を捕まえて、羽生王位の勝ちとなりました。
羽生三冠はこの防衛で王位を6連覇、通算18期としました。
タイトル獲得数を96期に伸ばし、自身の記録を更新中です。
棋聖戦、王位戦とフルセットまでもつれ込みましたが、結果はいずれも防衛と勝負強さを見せた羽生三冠。
この後、王座戦の防衛戦もあり、まだまだお忙しい日程が続きます。
羽生善治三冠、王位防衛おめでとうございます。