里見香奈女流名人に伊藤沙恵女流二段が挑戦していた第44期女流名人戦五番勝負。
第3局は104手で里見女流名人の勝ちとなりました。
シリーズ成績を3連勝とし、女流名人防衛です。
では、第3局を振り返りましょう。
第3局は伊藤女流二段の先手番です。第1局と同じような進行になりました。違いは▲5八金左が▲2八銀に変わっているところです。
△4四銀と飛車の横利きが止まったところで、伊藤女流二段は▲8四歩と飛車先を交換しました。一歩持つことが大きいという判断ですね。
代わりに△1五歩と1筋の位を取らせることになり、その損得がどう表れるかが見所です。
▲8四歩からの飛車先交換をとがめるには?里見女流名人の答えは△8四飛のぶつけでした。先手の銀が7六にいると▲8五銀で防がれてしまうので、この一瞬だけがチャンスです。
図から▲8五歩と打ってしまうと手損になりますので、交換するくらい。そうなると、お互いの左金が動いていないのが活きてきます。飛車の打ち込みがありません。
伊藤女流二段が序盤で▲5八金左を保留したのはこういう展開を事前に研究していたのではないか、と推測することができますね。
飛車交換後、伊藤女流二段の指し手は▲8六飛でした。狙いは後手の飛車の打ち込みを消しながら、左銀と連動して8筋を攻めるものです。
飛車を一方的に手放すので、何か得を求めることになり、決断の一着と言えます。
このように敵陣ではなく自陣に打つ飛車を「自陣飛車」と言います。よくあるのは▲8八飛と下に打つものですが、この場合は浮き飛車の方がより良いという判断ですね。
里見女流名人は飛車を手持ちにした得を活かすべく、△8三銀~△9三桂と盤上の駒で受けました。離れ駒ができるので怖いところですが、強気の受け方を選択しました。
感想戦ではこの辺りの変化についてのコメントが多く残っています。
図で攻める手段としては、▲6五歩、▲6五桂、▲9四歩、そして本譜の▲7三歩成など、いろいろ考えられます。
どう組み合わせるかですが、里見女流名人はここで▲9四歩を気にされたそうです。伊藤女流二段はそれに対して△7四銀を気にされたそうですが、▲2五飛~▲9五飛としておき、9筋からの攻めが残るので先手も悪くないとのことでした。
本譜もギリギリの攻防が続いています。駒の損得は先手の2歩得だけ。後手玉は薄いですが、先手も壁銀を抱えているので、手番をどう生かすかにかかっています。
実戦は▲6四歩と飛車を捨てて、駒の働きで勝負する順を選びました。△8五銀▲同桂△6四金▲7三銀と調子よく攻めているようですが、後手から見て左が広く、飛車がないと捕まえにくい形だったのが先手としては辛いところ。
感想戦では▲8九飛と飛車を逃げる手が検討され、△8八歩以下難解な勝負とされました。
以下、大駒3枚を持った里見女流名人が時折細かい受けを織り交ぜながら先手陣を的確に攻め、押し切りました。
今シリーズの結果だけ見ると3連勝と圧倒した里見女流五冠。
内容も相手の先まで研究している印象があり、さすがは女流五冠としか言いようがありません。
里見香奈女流五冠、女流名人防衛おめでとうございます!