里見香奈女流名人に上田初美女流三段が挑戦している第43期女流名人戦五番勝負。
第2局は104手で上田女流三段の勝ちとなりました。
シリーズ成績を2連勝とし、奪取に王手をかけました。
では、第2局を振り返りましょう。
第2局は里見女流名人の先手番です。
3手目▲7五歩から石田流を目指した手に対して、上田女流三段の4手目は△1四歩でした。
これは先手の指し方によって、居飛車と振り飛車を使い分ける含みがあります。本譜は10手目△4五角からの乱戦になりました。
52分の長考で▲7四歩の突き出した手に対して、37分で返して△4二飛と両者妥協なき手順に踏み込んでいきます。
よく定跡書に書かれているのは、△4五角には▲7六角が返し技で先手指せるとなっています。
しかし、このケースですと1筋の位が取れているので2七の馬と連動して駒得が見込めます。ちょっとした違いで変わってくるのが将棋の面白いところですね。
図の△1八歩で香が取られそうです。里見女流名人の予定はここで▲3八銀だったそうですが、△1六馬と歩を補充する好手があって単に▲同香と取りました。
ちなみに△1六馬に▲1八香ですと、△3八馬~△1八香成の2枚換えで後手の駒得となります。
先手は香損の代償を得るべく動く必要があり忙しい局面です。▲7四飛と走って桂取りを見せます。
ここで△2九馬と桂馬を取った上田女流三段ですが、感想戦では少々引っかかっていた手だったようです。
ここでは△6二銀と受けておく方が良かったのでは?と里見女流名人の指摘があり、「いい飛車の引き場所がないんですよね」とおっしゃっています。
後手は△2九馬や△1六香など分かりやすい攻めがあるので、先手の手がなければ自然と良くなる理屈ですね。
5七のマス目に数を足してきた後手に対して、6九の金を▲6八金と上がって受けました。パッと見、△7六桂が見えているだけに勝負手です。
上田女流三段は堂々と△7六桂と打ち、里見女流名人は▲7七銀と遊び駒を活用しながら手駒に桂を加えます。
実は△7六桂に対して▲7七銀ではなく▲6一馬と切る手があって、以下△同玉▲7二歩成△5一玉▲6二と△同金▲7一龍で王手桂取りがかかります。
感想戦によると里見女流名人は▲6一馬の筋が見えていなかったらしく、「気づいていたら、きっと指していました」とのことでした。
前図で▲6一馬の筋を逃し、局面は後手優勢の終盤戦です。
前局は▲5一角が印象的な一局でしたが、本局は5二にいた金を引く△5一金が上手い手です。
▲5二馬からの2枚換えを防ぎつつ、守り一方だった飛車を活用する味の良い一手で、これで後手のリードが広がりました。
以下、里見女流名人も食い下がるものの、いかんせん駒の働きが悪くて届きません。
上田女流三段の勝ちとなりました。
挑戦者の連勝で、奪取まであと1勝としました。このまま勢いに乗って奪取するのか、踏ん張って巻き返すのか注目ですね。
戦型予想は、上田女流三段が先手なので対抗形になると予想します。
第43期女流名人戦五番勝負 第3局
里見香奈(さとみ・かな)女流名人 対 上田初美(うえだ・はつみ)女流三段
2017年1月29日(日)
<関根名人記念館>千葉県野田市東宝珠花237-1 いちいのホール5F
立会:野月浩貴(のづき・ひろたか)七段
記録係:渡辺弥生(わたなべ・みお)女流初段
解説:阿部健治郎(あべ・けんじろう)七段
聞き手:竹部さゆり(たけべ・さゆり)女流三段
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