渡辺明竜王に丸山忠久九段が挑戦している第29期竜王戦七番勝負。
第5局は106手で渡辺竜王の勝ちとなりました。
シリーズ成績を3勝2敗とし、防衛まであと1勝です。
では、第5局を振り返りましょう。
第5局は丸山九段の先手番です。序盤の5手目までは角換わりの出だしでしたが、渡辺竜王は横歩取りに誘導しました。そして、流行の△8四飛+△5二玉型ではなく、△8五飛+△5二玉型を採用しました。久々に中座飛車の登場です。これに対しては▲7七角から先手が中原囲いにするのが有力とされており、渡辺竜王の新研究に注目です。
渡辺竜王の構想は△7三銀から右銀を繰り出して攻めていくものでした。相掛かりの後手番ではよくこの形を指している印象があります。
丸山九段は通常なら6八に持っていく銀を8八に置いて相手の形に対応しており、感想戦で渡辺竜王は「銀を出て攻めるつもりが、あまり攻められなかったですね」と、おっしゃっています。
近年の横歩取りは、一度中住まいにして、局面が落ち着いたら囲い直す、という流れをたどることが多いです。それにしても横歩取りの戦型で金無双を見るのはとても珍しい印象があります。局面は▲銀△桂+歩2枚の交換で先手が駒得しているかは判断の分かれるところ。丸山九段は▲8七歩では▲7六銀とする予定だったそうですが、△6六桂~△8七歩という攻め筋があって、その変化は後手が良いとのこと。続く△2七桂は一瞬筋悪に感じますが、駒得を見せて先手の動きを催促しています。
金無双に対する▲4四歩は「うさぎの耳」と呼ばれる急所で、ぜひ覚えておきたい攻め筋です。もう少し駒があれば▲4五歩と継ぎ歩をし、取ってくれれば▲4四歩や▲4四桂などの攻めを狙うことができます。駒が少ないので実戦は▲6四歩と攻めました。歩による攻めは手筋の一着ですが、先手が歩切れになった瞬間に△7六香が痛打。守りの金をはがされては後手有利がはっきりしてきました。
局面は後手優勢の終盤戦です。感想戦によると終盤で渡辺竜王に誤算があったそうで、図の局面では後手玉に詰めろがかかっています。少し前は詰めろのかからない局面だったので、詰めろがかかると人間同士の戦いでは相当怪しい雰囲気が漂います。渡辺竜王は残り28分のうち7分使って△5二金打と手を戻しました。これで詰めろが続かないので後手優勢は揺るぎません。秒読みなら怪しい局面でしたが、時間を残していた渡辺竜王の戦上手ぶりが際立ちました。
後手番を制し、防衛に王手をかけた渡辺竜王。
次局は丸山九段が後手番ですので、戦型は伝家の宝刀の一手損角換わりになることでしょう。
最新研究と力のぶつかり合いが見られそうで楽しみです。
第29期竜王戦七番勝負第6局
渡辺明(わたなべ・あきら)竜王 対 丸山忠久(まるやま・ただひさ)九段
2016年12月7・8日(水・木)
<常磐ホテル>山梨県甲府市湯村2-5-21
立会:中村修(なかむら・おさむ)九段
解説:深浦康市(ふかうら・こういち)九段
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第29期竜王戦 七番勝負 第6局初日 渡辺明竜王 vs 丸山忠久九段
解説:西尾明(にしお・あきら)六段
聞き手:熊倉柴野(くまくら・しの)女流初段
第29期竜王戦 七番勝負 第6局2日目 渡辺明竜王 vs 丸山忠久九段
解説:先崎学(せんざき・まなぶ)九段
聞き手:本田小百合(ほんだ・さゆり)女流三段