里見香奈女流名人に伊藤沙恵女流二段が挑戦している第44期女流名人戦五番勝負。
第1局は98手で里見女流名人の勝ちとなりました。
では、第1局を振り返りましょう。
振り駒の結果、伊藤女流二段の先手番となりました。3手目に▲9六歩と端歩を打診し、里見女流名人も△9四歩と突き返します。戦型は相振り飛車になりました。
今期倉敷藤花戦第1局と似た進行で、図の△4五銀が「自分で考えてやってみたかった手」という里見女流名人の新構想です。
ここから、先手の受け、後手の攻めという棋風通りの展開になります。
金無双は銀が端を守っているので、1筋を突き合うことができる、というのが一般的です。
里見女流名人が角の利きを活かし△1五歩▲同歩△同香と端を攻めたのが図の局面。攻め駒と守り駒の交換は攻め有利なので、ここは実戦のように▲1七歩と受けるところです。
ちなみに、ここで先手の持ち駒に歩が2枚あると▲1六歩△同香▲1七歩△同香成▲同銀と取って攻めを切らすことができます。ゆえに、先手はどこかで▲8四歩から飛車先交換しておけば、受けに役に立った可能性もあるわけですね。
後手の端攻めに対して▲1七歩と受けるのは悔しいようですが、後に▲1六歩から取りに行けるので損得は微妙です。実戦も伊藤女流二段は▲1六歩から香車を取りに行きました。
ところが、感想戦によるとこの手を嘆いたといいます。前手で▲6八角と引いたところなので、▲5六歩と突くべきとのこと。
もし▲1六歩と突くならば▲6八角△2五歩の前にするほうが良いものの、実践心理としては2六歩の拠点は不気味に感じます。
駒の損得は先手香得なものの、いかんせん駒の働きが悪く、はっきり後手良しの局面です。
▲1七同香の局面で、里見女流名人が手筋の攻めを見せました。
△3七歩成▲同桂△1七桂成。
これが上手い攻め方で、矢倉でも時折出てくる筋です。
本譜は守りの銀を端に追いやり、△3六銀と玉頭を制圧して、後手優勢を維持しています。
先手の攻めが遠く、後手はゆっくりした攻めでも間に合う終盤戦です。
実戦は△4四香と打ちました。▲4六馬の筋を消したり、先手玉が上部脱出時の押えになったりと効果的な手段です。
うちのソフトがここで△2一香という手を指摘しており、これがなるほどの一手だったので、ご紹介します。
通常、香車で数を足すときは飛車の前に並べるものですが、この場合は後ろから並べるほうがより効果的というもの。効果は約10手後に表れて、意味としては難解。
でも、こういう発想があることを知っておくだけでも、いつか役に立つかもしれません。
里見女流名人の快勝と言える内容で、幸先の良い滑り出しです。
「第2局は精いっぱい頑張ります」という伊藤女流二段のコメントもあるように、巻き返しにも期待ですね。
第1局が倉敷藤花戦第1局をベースにした将棋だったので、第2局の戦型は対抗形になると予想します。
第44期女流名人五番勝負第2局
里見香奈(さとみ・かな)女流名人 対 伊藤沙恵(いとう・さえ)女流二段
2018年1月28日(日)
<出雲文化伝承館 松籟亭>島根県出雲市浜町520番地
立会:東和男(あずま・かずお)八段
記録:北村桂香(きたむら・けいか)女流初段
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第44期岡田美術館杯女流名人戦第2局 イベント情報(日本将棋連盟)